第16章 願いましては(赤葦京治)
【今から3ヶ月前 4月】
「へいへーい赤葦ー!飯食おうぜ!屋上!」
木兎が天井を指さして大声で叫ぶと、赤葦は席に座ったまま呆れ顔を見せた。
「木兎さん、新しいクラスに馴染めてないんですか」
「ちーがう!俺は赤葦と飯食いたいの!」
「別に、いいですけど」
赤葦は無表情のまま机から紙切れを取り出した。「その前に、職員室寄ってってもいいですか」
「おう!なんだそれ?」
「今日の朝自習のプリントです。なんか、俺だけ回収されなくって」
「赤葦、新しいクラスに馴染めてないのか?」
「違いますよ。日直で席を立ってたら飛ばされたんです」
木兎さんと一緒にしないでください、という言葉は無視して、机の上に置かれた紙を覗き込んだ。数学の問題だ。1年前に習ったはずの範囲だけれど、木兎には公式すら思い出せない。
折り目1つないプリントを眺めながら、「相変わらず赤葦は字が上手いなぁ」と呟く。
達筆なだけでなく、図形まできっちり整っている。円もグラフも、これでフリーハンドなのだから驚きだ。
「あ、名前書き忘れてるぞ」
右上の空欄を指で突付いて教えてやると、赤葦も覗きこんで「ほんとだ」と言った。
「ありがとうございます」
礼儀正しくお礼を言って、さらさらと書き加える赤葦を、木兎は満足そうに眺めた。