第15章 放電(赤葦京治)
ついた先が男子トイレだったので、私は間抜けな声を出してしまった。
薄暗い個室に押し込められて、壁に押し付けられる。
「ちょっと、」
「静かに」
赤葦は蓋の閉まった便座の上に荷物を放り投げた。
ガチャリと鍵の掛かる音がする。
私は訳がわからなかった。
ねぇ、あなた優等生じゃなかったの?
その視線に気付いたのか、赤葦は切れ長の目を細めて「ごめん、」と他人事のように囁いた。「なんか、我慢できないみたいでさ」
大きな掌に身体をまさぐられる。いつもの体育館裏とは違う、はっきりとした目的のある動き。
「ねぇ、ごわごわしてるから嫌だって言ったじゃん」
吐息混じりに吐かれるその言葉は、きっと私の下着のことを言っているのだろう。
レースのついた下着を、彼は手触りが悪いと文句を言うのだ。飾りもワイヤーもない、柔らかいものがいいと。
可愛いのに、そう言い返そうとしたところに、足音が聞こえて口を噤んだ。
「赤葦!!ここか!?」
バタンと扉が開く音がした。
身体が固まる。木兎さんの声だ。
赤葦は焦る様子もなく目線だけ上に向けた。
案外早いですね、そんなふうに言いたげだった。
私達のいる個室の前で足音が止まり、
ドンドンドン、と乱暴に扉が叩かれる。
まるでゾンビ映画のワンシーンみたいに。
心臓がばくばくと音を立てた。もし見つかったら、どうなってしまうんだろう。
縋るように赤葦を見ると、意外にも彼は笑っていた。
私の瞳を覗きこんで、人差し指を唇につける。
お静かに、
彼の唇がそう動いた。顔が近づく。
「ちょっと木兎!人違いだったらどうすんのさ」
扉の開く音と同時に、もう1人、声が追加された。「いや、人違いじゃなくても迷惑だけど」
「だって、居るとしたらここくらいじゃん」
「お前ほんと馬鹿!すみませぇん、今こいつ連れて帰るんで!」
木兎さんじゃない声が個室の中の私達に向かって叫ぶ。
「……おい、木兎何してんだよ、帰るぞ」
「いやでもだってさ、ここから赤葦の気配がするもん」
「野生的勘か!!」
五月蝿い個室の外とは裏腹に、私は静かに固まっていた。
赤葦にキスをされていた。
扉一枚挟んだ向こうに、彼のチームメイトが2人もいるのに。