第15章 放電(赤葦京治)
行っちゃった。
壁に背をついて、はぁ、と溜息を吐く。
やっとの思いで彼女の座を掴みとったのに、どうしてこんなに惨めなのだろうか。
準備運動をする威勢のいい声が背後の体育館から聞こえる。
地面と体育館の壁との間に生えた苔を、靴の先でつついた。
彼はチームのみんなに愛されている。
その証拠に、私よりもバレー部の人達といたほうが楽しそうだ。
私って、本当に恋人なのかしら
ふと考えて、そういえば告白も最悪だったな、と思い出した。
帰宅途中、ロードワークをしていた赤葦に偶然会って、
『私、赤葦のことが好き』
2人きりの空気に勢いで告白したら、
『...』
彼は何か言おうと確かに口を開いた。けれど、
『赤葦発見!何サボってんだよいくぞ!』
そこに木兎さんがやってきて、
結局赤葦は木兎さんについて行った。
去り際に一言『俺もだよ』とだけ残して。
浮かれてしばらく気が付かなかったが、今ならわかる。
あの時点で私ではなくバレーを選んでいたのだ。
彼は私が好きと言いながら、木兎さんについていったんだ。
その上、赤葦は私との関係を部員に隠している。
「からかわれると面倒だから」という理由は至極彼らしいとは思うが、人目のある場所で素っ気ない態度を取られると、四六時中あの木兎さんと一緒にいる彼の隣に私が入る隙間はない。
なんだ、最初から負けてるじゃないか
惨めすぎて笑いすら出てくる。
きっと彼は私のことをちゃんと好きだ。それは態度や表情でわかる。
言葉にして伝えなくても、ちゃんとわかる。
けれど、きっと一番ではないのだろう
友情よりも愛情なんて言うけれど、彼にとっては私への愛よりチームメイトへの愛のほうが大きいのだ。
本当にシンプルなこと。
私よりも、バレーボール。
わかってたよ。
わかってたけど、
なんか悔しいじゃん
涙が零れた。
制服が汚れることも気にせず、地面に座り込んだ。
背後から聞こえる靴と床が擦れる音、ボールが叩きつけられる音。
あの喧騒の中に、彼はいる。コートの中こそ、彼の居場所なのだろう。
私の隣なんかじゃない。
次々溢れ出てくる涙を拭いながら、独りで泣いた。