第15章 放電(赤葦京治)
体育館裏はどこの学校でも1日中日陰で、人の気配のない場所なのだろうか
なまえは自分の胸に顔を埋める恋人の頭を撫でながらぼんやりと考えていた。
ジャージに着替え、いつでも部活に行ける準備を整えた赤葦京治は、体育館裏で私を抱きしめている。
彼はいま充電中なのだ。
静かに私の身体に腕を回して、私の匂いを嗅いで。
そうすると部活を頑張れるらしい。なんて光栄なことだろうか。
私のような帰宅部の端くれでよければ、存分に堪能してください、という感じ。
けれどこの状況は少し、身体に毒だ。
「癒される……」
ぽつりとそう呟いて私を撫で回すその手には、性的な欲求は何も感じられない。
けれど私は、彼と身体を重ねた日を思い出して全身の血が沸き立ってしまう。
ひんやりと湿っぽい空気が辺りを包んでいた。
赤葦は基本的に冷静で優等生だから、学校で羽目を外すことは絶対にない。
もしも校内でいかがわしいことをして、見つかって停学にでもなろうものなら、バレー部全員に迷惑が及ぶのだ。
抱きしめられるだけじゃ物足りないんです、なんて言う権利は私には無い。
でもさ、たまには夢中になってほしいじゃない。
ムキになって私を求めてほしいじゃない。
そんなふうに考えていると、「赤葦ー!!」と体育館の中から声が聞こえてきた。
声を聞くだけでわかる。あれは木兎さんだ。
「赤葦、呼ばれてるよ」
私は未だ胸に顔を寄せる無造作な癖っ毛に声を掛けた。「部活行かなきゃ」
名残惜しそうに腕が離れた。
本当は行かないで、って言いたい。
私より背の高い彼に縋り付いて、あと少しだけ、って言いたい。
けど、そんなこと言えるはずがない。
私はこの人が大好きなんだもの。
教室で机に座って勉強している姿も、微睡んだり、気だるそうに窓の外を眺めたりする姿も、当てられた問題がわからなくて、むつくれる姿も。
こうやって子供のように甘えたりする姿も、すべてが愛おしい。
けれどこの人は、全国の舞台でトスを上げるセッターであり、それがきっと、彼の本当の姿。
この人を振り回すのは、あのエース1人で十分なのだ。
私まで我儘言って困らせてはいけない。
「赤葦ー、どこだよー」
木兎さんの声がさっきよりも大きく聞こえる。
じゃあね、頑張って、と小さく声を掛けると、彼は頷いて触れるだけの軽いキスをした。