第14章 capriccioso(澤村大地)
9月3日 (水)
インターホンを押すと、今日も彼女が顔を出す。少し、眠そうだった。
「昨日は遅くまで勉強してたから」
なまえは両手で口元を押さえながら欠伸をした。
「眠い」
「あんまり無理するなよ。今まで勉強してこなかったんだから、いきなりじゃ身体がついてかないぞ」
「うるさい」
「心配してるんだよ」
今日はできるだけ部活の話は避けて、受験の話題を出した。
お互いの希望進路、この前の模試の結果、今の自分の偏差値。
いつもの通学路を歩きながら、堂々巡りの悩みをぶつけ合う。
情報交換をしてみて、なまえと大地の学力はだいたい同じくらいであることが判明した。
「私たち、中学の頃から部活人間だったからね」
「俺たちが勉強の話するなんて、信じられないな」
「ねー、笑っちゃうね」
なまえはそう言い放って本当に笑った。
勉強の話は意外に盛り上がり、あっという間に学校についた。朝練の時間の、誰もいない校舎は白くて眩しい。
「じゃ、また明日な」
教室に向かうなまえに声を掛けると、彼女もにっこりと笑った。
「うん、また明日」