第14章 capriccioso(澤村大地)
「大会、どうだった?」
我ながら間抜けな質問だと思った。もしも自分の引退試合の後、同じように聞かれたら、きっとうんざりするだろう。
けれどなまえは笑みを浮かべたまま「夢のようだったよ」と言った。
「この曲が、永遠に続けばいいのにって思った」
悔いの無さそうな顔をしていた。
それを見て、安堵する。お疲れ様、と声を掛けた。
「あ、もしかして結果のこと聞いてた?」
「え、まあ、どっちでも」
「銀賞だったよ。順位で言えば真ん中くらいかな」
彼女は大きく伸びをしながら歩幅を小さくした。大地もそれに合わせてスピードを落とす。
「真ん中か、」
「でもさ、これでもよくやったほうだよ。いつもは県大会ダメ金だからね。ここまで続けられたことが奇跡。拍手」
そう言ってパチパチと手を叩いた。いつも通りよく喋る。喋ることで、悲しみをまぎらわしているようにも見えない。あっけらかんとしたいつもの彼女だった。
学校に着いて部室へ行こうとしたら、なまえは「明日からも、同じ時間に迎えに来てよ」と言い出した。
「せっかく念願の寝坊ができるのにか?」
「うーん、なんか、今更変えるのも嫌じゃん。とりあえず、大地が部活続けてる間は私も今まで通りの時間に起きる」
「わかった。じゃあまた明日な」
朝の7時前から、また明日、というのにも慣れてしまった。彼女とは、中学の頃からクラスも部活も違うから、朝しか顔を合わせないのだ。