第2章 HCOOCH3(菅原孝支)
放課後、菅原は体育館へと続く渡り廊下を歩いていた。ふいに人の声が聞こえ、無意識に視線をそちらへ向ける。同じクラスの女子生徒たちが集まっていた。その中になまえの姿を見つけ、足が止まる。
なにやら話しているようだが離れていて聞き取れない。しかし彼女たちを取り巻く空気が、単なる仲良しグループのお喋りではないことを伝えていた。
眺めていると、少女たちは乱暴になまえの腕をとり、校舎の裏側へと連れていってしまった。菅原もすぐに後を追う。
壁に隠れて様子を窺うと、なまえを女子たちが取り囲んでいた。
...これはもしかしてあれかな?ドロドロした女子の闇の部分かな?
「お前さー」女子の中の一人が声をあげた。「そのキャラ可愛いと思ってやってんの?」
うざいんだけど、と吐き捨てた。
なまえは特に表情を変えることなく、黙って立っている。
「ちょっと可愛いからって調子のってんじゃねぇよ」
...助けたほうがいいのかな?
菅原は迷った。この集団は恐いとは思わない。しかしなまえが全く動じてなさそうに見えるし、自分が男らしく助ける姿もなかなか想像がつかなかった。
「何黙ってんだよ!この虚言癖野郎!」
なまえの態度が気にくわなかったのか、女子の一人が激昂して壁を蹴った。
教室で見せている普段の姿とのギャップに思わずドン引きである。
よし、助けよう。
菅原は決心した。もちろんそれはなまえからの好感度を上げたいという不純な動機もあるし、先程大地から指摘された女子力の上昇に歯止めを掛けるためでもある。
菅原は深呼吸を1つしてから「 みょうじ 、みょうじ いるかー?」と大きく声を出した。
「あぁ、こんなとこにいたのか」
菅原はさも今見つけましたよ、といわんばかりの笑顔でひょこっと顔を出した。
女子たちは一瞬固まったようだったが、すぐに「なんだ、スガか...」と空気を弛めた。
そのリアクションは不服だったが、警戒されていないなら安心だ。
「もー随分探したよ」と女子の中に割って入る。
「担任がさ、お前だけプリント出してないって呼んでたぞ。今すぐ教室戻って来いって」
どさくさに紛れてちゃっかりなまえの手を掴む。「悪い、ちょっと借りるわ」と周囲に笑顔を向けて、「行くぞ」と歩き出す。
脱出成功だ。