第9章 # 7 DEUCE
「爆発まで、あと20分もないわよ」
思わず舌打ちをしてしまう。
時間が短すぎる。
リサが爆弾を解除できるわけがない。
飛行機の操縦もできないだろう。
ナインとツエルブが車で到着するのに10分ちょいかかるとして、脱出までにはギリギリ持つ。
でも、そこから車を離れさせなければいけない。
「あんな女を巻き込んじゃうからこうなるのよ」
「…」
「あら、何も言い返せないの?」
15歳とは思えない妖艶な笑みを浮かべながら、ハイヴは私の周りをグルグルと徘徊する。
「そもそも、ナインが許可したっていうのに驚くわ」
「色々あったの」
「ふーん…ずっと一緒に居た私は銃を向けられたのに?」
ふっ、とハイヴの顔に陰がさす。
どこか寂し気に、彼女は笑う。
「ハイヴ、もしかして」
「つまらない話はしないで。…ナインに勝てれば、私はそれでいいのよ」
ギリ、と彼女の爪は自らの掌に食い込む。
「…そう」
そんな彼女に、何も返す言葉が見つからない。
ただ、何も意味を持たないひとことしか言えなかった。
「どうして貴女がそんな顔するのよ、名前」
「え?」
「可哀想、とか思ったの?」
「そんなこと、無いけど」
無邪気に、ハイヴは笑った。
いや、無邪気に見えただけかもしれない。
「本当、優しいのね。貴女」
「優しくなんかない」
「いいえ、貴女は優しいの。だからこそ、痛い目を見るのよ。それはきっと、ナインもツエルブも同じ」
ふぅ、とハイヴは小さく溜息を吐き、私に笑みを向けた。
「貴女を解放するわ」
「は?」
「優しさに免じて、ね。さっさと逃げなさい。日本の警察も、強行突破っていう手を使うのね」
モニターに映し出される柴崎さん。
その姿に、少しだけホッとした。
まだまだ、警察も捨てたもんじゃない。
「裏口を使えば、どうにかして逃げられるわ。これは私からの最後の優しさよ。感謝して」
「…ありがとう」
ひとことだけ残し、示された場所を目指し走る。
外に出て、少し歩いたところから車を発見した。
「名前!」
「ナイン!!」
車から顔を出したナインは、スピンクスのお面をつけていた。
「そこにいろ!」
そういった数秒後、すこし離れたところから爆発音と、炎が見えた。
.