第8章 三月ウサギ・エリオット=マーチ
「口に合えば良いんだけど…」
バスケットからふわりと香る甘い匂いが、ブラッドの部屋を漂う
「………お嬢さん?」
「なぁに、ブラッド?」
あからさまに口元を引きつらせたブラッドに、アリスは満面の笑顔を返す
「………………この、鮮やかなオレンジ色のスコーンは…、もしや……」
「……もちろん、キャロット風味よ?」
「…!! マジで!?」
どんよりとしたブラッドの表情とは対照的に、エリオットは身を乗り出してバスケットの中を覗く
「…ちゃんとプレーンもあるから大丈夫よ」
「………そうだな。そちらだけ頂こう」
「すっげー!!食ってもいいのか!?」
ピコピコと耳を動かしながらとびきりの笑顔でアリスを見つめるエリオットと目が合い、なぜかキュンとするアリス
(『キュン』って何よ!…まぁちょっとは可愛いところもあるけど…!!)
程よい甘さのスコーンを二人はそれぞれ一口食べる
「…これは、なかなか美味いじゃないか」
「ここのシェフには負けるけどね」
どうやらブラッドは気に入ってくれたようで安心したが、一方のエリオットの様子がおかしい
「…エリオット?」
「………う…」
「…どうした、エリオット」
「………美味い!美味いぜアリス!ここのシェフのにんじん料理も美味いけど、アリスの作ったにんじんスコーンは今まで食ったにんじん料理の中で一番美味いッ!!」
一口一口を美味しそうに食べるエリオット
その顔はマフィアの仕事の時とは考えられないほど緩んでいて幸せそうで…