第3章 チェシャ猫・ボリス=エレイ
「…助かったわ、ボリス」
額に滲んだ汗を拭う
ボリスはくるりと振り向くと、人懐っこい笑顔を向けてくれた
「礼には及ばないよ。おっさんの破滅協奏曲は俺も回避したかったし」
「本当に、どうしたらあんな生死を分けるような不協和音が出るのか不思議だわ」
二人でじろりとゴーランドを睨む
(本人がアレを芸術と言ってのけるあたり、この世界の人よね…)
再び溜め息を吐くアリスにボリスは「ほら、おっさんの音楽の後遺症が〜」と、ゴーランドをからかう
「そんなこたぁどうでもいいんだよ!それよりボリスにアリス!新しく出来たアトラクションの試乗してくれないか?」
ここの遊園地は結構な頻度で新アトラクションが作られている
しかし、ボリスがイタズラして少し改造してしまう(ゴーカートの車をサーキットレースの車並みの速さにしたりする)ので必ずしも安全とは言えない
「またなの?…今度のは何?」
「裏でコソコソしてると思ったら…。どうして企画開発に俺も混ぜてくれないんだよ〜」
「お前が関わると客の安全性が信用出来ねぇんだよ!…今回は、巨大迷路だ!」
(なんだ…案外普通じゃない)
上下左右に回転するメリーゴーランド(アトラクションの方だ)や、尋常じゃないスピードのうえに安全ベルトが緩いジェットコースターがあるのだ
やはり身構えてしまう
「大丈夫だぜ、アリス。今回はボリスの改造前だ!率直な感想を聞かせてくれ!」
「…いいわ、行きましょう?」
…行かなければ良かったとアリスは後悔するはめになるとは、この時は思っていなかった