第5章 意地悪なJoker*黒尾鉄朗√
(どうしよう…)
木兎のせいで桃の頭の中はグルグルと混乱していた。
(みなさんの視線が痛い…)
自分が注目を浴びていることを感じて、桃は視線をさまよわせた。
注目を浴びることが苦手な彼女にとって、この状況は耐え難いことだった。
(ううっ、助けて…!)
助けを求めるように見つめた先には、幼なじみでもある黒尾がいた。
その視線を知ってか知らずか、黒尾は桃に近づく。
他の人はよくわからずその場で動くことがなかった。
いや、黒尾のオーラを察して動かなかった。
桃の側に来た黒尾は彼女の肩を抱く。
(!?)
引き寄せられた力に驚いて桃は黒尾を見上げた。
「こいつが元『王女』であっても、今は音駒排球部のマネージャーの東山桃だ。」
黒尾の声がシンっと静まり返った体育館に響く。
「桃を困らせた奴は……覚悟しとけよ?」
黒尾の口が三日月型に笑う。
だが目は全く笑っていない。
(私のために……でも、この状況はっ!)
黒尾の優しさ、そして肩を抱かれたままという状況、色々な思いが重なって鼓動が速くなる。
(こんなにドキドキするのは、クロだから…クロが好きだから、なのかな…!)
そんなことを考えてしまった桃は益々赤くなっていった。