第13章 君じゃなきゃ
「恋愛ってさ……よくわかんないよね」
「なんだよ急に」
「人を好きになるって難しいよね。好きって、よくわからないっていうか」
「……それまじで言ってる?」
「え? なんで?」
「お前……自分で気付いてないのか」
何の話? 振り返れば複雑そうな顔をする青峰と目が合う。気付いてないって何が? 首を傾げれば目を逸らされた。
「難しく考えすぎなんじゃねぇの」
「そうなのかな……」
「そいつじゃなきゃ、駄目みてぇだなって思えたらもうそれはきっと恋なんじゃね」
「その人じゃなきゃ駄目……か」
私にはそう思える人はいるのかな? そう思って浮かんでくる顔は、ぼやけていて誰かなのかさえ確認することが出来ない。すると、ぽんぽんと頭を叩かれた。
「別に今すぐ気付く必要もねぇけど、知らないままはやめてやれよ」
「……? えっと、うん」
「雨あがったな」
話していて気付かなかったけど、いつの間にか雨は止み雲の隙間から太陽が差し込んでいた。
「お前、人を好きになったことないのか?」
「え、私? どうかな……ないんじゃないかなって思うんだけど」
「ま、知らない間になってんじゃねぇの? たぶん」
そうかもね、と笑う。再び青峰に背負ってもらい森を抜けていく。方向音痴なんじゃないかと心配だったけど、青峰はちゃんと皆がいる下宿先まで戻ってくれた。雨が上がったお陰か、下宿先の玄関前では征十郎が仁王立ちして待ち構えていた。表情が険しいのはきっと気のせいじゃない。