第9章 乱されほだされて
「こらっ! 紫原!! 何してんだこのあほっ!」
「げっ、峰ちん……」
「ええ!? あ、青峰!?」
青峰は「ったくよ……」と世話が焼けるぜとでも言いたげに、押し倒された私を救出すると「赤司が呼んでぞ」と敦君に告げた。
「あ――……怒ってた?」
「主に有栖のことでな……」
「赤ちんって意外と過保護なんだね。怖い怖い。ちゃんと謝ってくるし」
「おう、そうしとけ。有栖はもう少し部屋で休んでろよ。どうせ今夜肝試しとかやるし」
「そうなの? 楽しみ! その前に晩御飯の準備もあるね……カレーだから楽しみにしてて」
「さっちんに手伝わせないようにね? 有栖ちん。そんじゃ」
敦君は打って変わって、何事もなかったかのように部屋を出た。青峰と目が合ったが私は困ったように笑うと、何を察したのか彼は呆れたように笑い返した。
彼らとはそこまでで、私は気持ちを切り替えて晩御飯の用意をすることにした。
――結局ほだされた気が……。
今更気付いたところで、タイミングとやらは全速力で逃げてしまったようだ。