第6章 金魚鉢の思い出
「有栖ちん、ぽい破れた。そっちは?」
「……」
既に破れているぽいと、空っぽの器を見せた。
「おかしいな、俺の教え方が悪かったか?」
「いや……征十郎の教え方は、よかったよ。ただ私が下手なだけで……」
「あははっ、有栖ちんってぶきっちょ?」
「煩いやーい」
すると、敦君は一匹の金魚が入った袋を私の目の前に揺らした。
「敦君?」
「俺の勝ちね。これ、あげる。たこ焼き買いに行こう」
「……っ、うん!」
「赤ちんはどうする?」
「俺はもう暫くここにいるよ。お前達、花火の時間になったら最初に伝えておいた待ち合わせ場所へ必ず来るんだぞ。いいな」
「わかった!」
敦君の隣で、歩幅の違う私達は少しずつずれながらも歩く。
置いて行かれないように、そう思い早足になるけれど、慣れない下駄を履いているせいか彼の背中はどんどん遠ざかっていく。並んでいたはずの私達は、いつの間にかそうではなかったように距離を生み、離れて行く。
「敦く……っ!」
人混みに紛れていく。
ついに彼の背が、私の視界から消えたところで諦めた様に私は立ち止まった。
「敦君早いなぁ……」
どうせたこ焼き屋に辿り着ければ、自ずと彼とも合流できるだろう。そう思った私は、仕方なく人混みをかき分け歩き始めた。