第6章 金魚鉢の思い出
「はい、有栖ちん」
「うんっ! ありがとう」
敦君からぽいを受け取り、私も腕を捲り上げ金魚すくいに挑戦し始める。横目で敦君を見れば、思ったより真剣に水槽を見つめて「どれにしようかなぁ」と楽しそうに選んでいた。
「ねぇねぇ、敦君。どっちが多く取るか競争しない?」
「俺まじで金魚すくい上手いよ? 有栖ちんとか、足元にも及ばないし」
「言ったね!? じゃあ、ぽいが破れるまで何匹すくえるか競争ね!」
「いいよ。負けたらたこ焼き奢ってね」
「なら、私が勝ったら……綿あめ買って!」
「別にいいけど。ほんと負けないから」
「臨むところ!!」
意気込んだはいいものの……実のところ、金魚すくいはあまり得意ではなかったりする。ぽいを握ったまま、じっと金魚を眺めていると記憶の片隅にいる征十郎の幼い姿がぼんやりと浮かんできた。
そういえば、彼は何をしても何をやらせても上手く出来てしまう。そのことに関して、彼はどう思っているのか……一度も聞いてみたことはない。
ちらりと征十郎へ視線を向けてば、彼もまた思っていたよりも真剣にぽいを握り、金魚をすくう。さりげなく覗いた器の中には、既に何匹もの金魚が泳いでいた。