第5章 数センチの距離
「遅いぞ、二人共」
「ごめんね征十郎に皆! お待たせしました」
「……馬子にも衣裳」
「黒子、こっちこい。殴り飛ばしてやる」
「桃井さんは凄く似合ってますね」
「おいっ!!」
さつきちゃんはとても嬉しそうだ。ちっ……彼女に免じて許してやろう。
「有栖ちん」
「敦君!」
既にお菓子を抱えた敦君が、私の方へと近づいてくる。すると、彼の大きな手が私の少し長い前髪を少し分けて何やらピンをつけてくれた。
「敦君……?」
「一足先に出店、行ってきた。それ、あげる。浴衣似合ってるよ」
「……!! ありがとうっ」
どんなピンがつけられているのか、私からは確認することが出来なかったけど、素直に嬉しい。笑顔を向ければ敦君は「行こうか」と手を差し出した。
「あ、敦君……?」
「ん? あ……いや、なんでもない」
差し出された手は、すぐにひっこめられてしまった。
恥ずかしさで思わず躊躇ってしまった自分が憎い。思い切って、掴んでしまえばよかったのに……。