第5章 数センチの距離
「なんですか、急に」
「え? 気になったから聞いてみたんだけど」
「テツ君私も気になる!!」
さつきちゃんの反応からするに、やっぱり彼のことが少なくとも気にはなっている様子だ。青春だなぁと思いながら黒子の答えを待つと、意外な言葉が聞こえてきた。
「いますけど、君には教えません」
「へ……?」
「僕にも守秘義務はありますよね」
「黒子ずるい……黒子の癖に」
「大きなお世話です」
結局、黒子の気になる人を知ることは出来なかったがいるということだけはわかった。さつきちゃんは見るからにそわそわとし出し「誰なんだろう……」と小さく呟いていた。
いいな、こうやって誰かのことを気にかけて、考えたりして。
「そういえば二人共、明日この近辺で花火大会があるそうですよ。行くんですか?」
「お祭り!? テツ君は行くの!?」
「いや……まだわかりません。黄瀬君が行きたいとしつこいので、行くかもしれませんね」
「私も一緒に行っていい!?」
「えっと……別に僕は構いませんよ。黄瀬君も桃井さんなら寧ろ歓迎してくれるでしょう。有栖さんはどうしますか?」
「私……?」
もしさつきちゃんが黒子のことを好きだったとしたら、お節介かもしれないけど応援してあげたい。
それにはつまり、黄瀬は邪魔だ!!
「私も行こうかな。一緒に……って駄目かな?」
「いいと思いますよ。黄瀬君はたらしなので女の子なら大歓迎でしょう」
「さりげなく黒子が黒い発言を……」
小さく黒子は咳払いしたので、聞かなかったことにしてあげる。
「浴衣着て行こうね、有栖ちゃん」
浴衣……。友達とお祭りに行くことが多かった私は、異性を交えて出かけるのは実のところとても久しぶりだった。浴衣か、それはいい考えかも。いつもと少し違った自分で、お祭りを楽しむのも面白いかもしれない。
押し入れの中にしまい込んでいるであろう浴衣を想像して、しわくしゃになっていないことだけを祈った。