第5章 数センチの距離
さつきちゃんの言葉に、私は苦笑いを浮かべるだけだった。気になる……と言ってしまえば、何故だかつい敦君を思い浮かべてしまう。あの傘の日から、私はどうしても彼が気になって仕方なかったりする。
でも仲がいいというわけでもなければ、友達というにはどうにもまだよそよそしい気がする。ああ、主に私が。もっと仲良くはなりたいけれど、バスケにも興味のない私が彼と出来る会話といえば、お菓子のことと他愛もない日常生活の会話くらいだ。
そう、本当は……もっと話したいのに。
「で、誰が気になるの?」
「ええ!? この話題まだ続いてたの!?」
「答えるまでやめないよ?」
「うっ……絶対誰にも言わない?」
「言わない言わない!」
「……敦君、かな」
「むっくん!? すっごい意外かも。あ、でも二人ってなんかいい感じだよね」
「えっ、そうかな?」
意外だった。私からはそうは見えなかったから。
「むっくんか……良いと思うよ! ちょっと癖強いかもしれないけど。だいぶ子供っぽいしね」
「そうなんだ」
「そうそう! すぐ挑発とかにも乗るんだから」
「ふふっ、なんか可愛いかも」
私の知らない彼を語るさつきちゃん。正直羨ましいとさえ思える。バスケ部のマネージャーだからかな、だから沢山の彼の姿を知ることが出来るんだろうなぁ。