Do not look back behind【進撃の巨人】
第1章 強く握られた拳
「すいません、手紙です。」
一枚の手紙を掴み民家のドアをノックする。
「あらハンナちゃん、いつもご苦労様ねぇ。」
「いえ、またお願いします。では。」
作り笑いを貼り付けて業務的な会話を済ませると次の配達先へ向かう。
…心から笑えなくなったのはいつからだろう。
カバンに手を押入れ、不自然な程の数がまとめられた束に手が当たり、それを出してみる。
宛先は…全て〝調査兵団〟。
あぁ、もうすぐか。
自殺志願者集団。
私は彼らをそう呼んでいる。
壁外調査では多くの人が死んでいるらしい。…らしいというのもハンナはそれに興味がなく、出立や帰還の様子を見に行くことをしなかった。そればかりか、遠目に野次馬の多さに溜息をつき、今なら街が空いていると仕事に励むばかりだった。
調査前には兵士と家族との手紙のやりとりが頻繁に行われる。
兵士から家族への感謝、息子や夫を心配する家族の思い。
自ら壁を越えて危険な道を進むなんて馬鹿みたい。
そんなことにより道の補修にでも資金を使って欲しいよ。
なんてことを考えながら手紙を再びカバンに押し込むと、ハンナはまた慣れた道を走りだした。