過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第81章 凶弾
「今そんな事を気にしている場合では無いだろうっ!?
君の命が掛かっているんだっ!!服を破くぞっ!!」
「―・・・―――・・っ!!」
ナナシは「やめろ」と言いたかったが、
血を吐くだけで声が出なかった。
当然だ。
心臓がある場所を撃たれたのだから・・・。
ヒュウヒュウという呼吸音を出しながら痛みに苦しむナナシは、
それでも服から手を離さない。
ハンジは頑ななナナシの態度が折れないと踏んで、
服の上から止血するように傷を圧迫し、
部下達に医療班の手配や部下達に様々な指示を出していた。
こうしている間にもナナシの身体から大量の血が流れ出ている。
ぼんやりする意識の中で、ナナシはエルヴィンの腕が
血に染まっている事に気づいた。
犯人が撃ったのは三発で・・・もう一発は運悪く
エルヴィンの腕を掠めていたのだ。
自分が盾になりきれなかった事にナナシはショックを受け、
片手をエルヴィンへ伸ばすと、彼は眼に涙を浮かべながら
ナナシの手を力強く握った。
「ナナシ・・・ナナシ、頼むから治療させてくれ。
お願いだ。こんな所で君を死なせたくないんだ」
大粒の涙がナナシの頬に落ちる。