過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第80章 すれ違い
「そもそも婚約者の振りは本来私の仕事では無いはずだ。
もうこんな下らない事に巻き込まれたくない。
ピクシスに頼んでお主好みの女を紹介・・・」
「何を言っているんだっ!?」
ナナシの細い肩をガッと掴んで、
エルヴィンはその瞳を覗き込むように顔を近づけた。
「私は一度たりとも君を婚約者『役』と思った事は無い。
他の女性を紹介だって・・・・?冗談じゃないっ!
私は君を・・・」
「それはお主の独り善がりだ。私は同意した覚えもないし、
こんな風に巻き込まれるのはもう御免だ。
もう二度と行かない」
エルヴィンが言い終える前に被せるように言ったナナシは
「もう遅いから寝る」と続け、逃げるように部屋へ
入ってしまった。
扉を蹴破って中に入りたかったが、もう深夜でもあったし、
何事かと宿屋の客が廊下に顔を見せたことから
エルヴィンは退くしかなかった。