過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第80章 すれ違い
彼女たちの勧めもあり、エルヴィンは直ぐ様ナナシの部屋へ向かったが、
応対したモブリットは曇った表情でナナシへの取り次ぎを渋る。
「おかえりなさい、団長。ナナシさんは・・・
もう眠ってしまっているので、明日の朝ではいけませんか?」
「すまないがモブリット、部屋へ入っても良いだろうか?
寝顔だけでも見たいのだが・・・・」
「・・・は、はぁ・・・・」
モブリットは室内を見て、どうしたものかと
考え倦ねていたようだったが、起きてきたナナシが
扉の所までやってきたので彼はホッとしたように部屋の奥へ下がった。
モブリットに配慮してか、ナナシがエルヴィンの身体を
ぐいっと押して廊下に出ると、無表情な顔でエルヴィンを見上げる。
ナナシの額に絆創膏が貼られているのを見て、
エルヴィンはそっと手を這わそうとしたが、
その手を叩き落とされ「用件は?」と抑揚のない声で尋ねられた。
触れさせても貰えないのか、と悲しい気持ちになったが、
気を取り直して今日の事について話し始める。
「今日はとんだ災難だったね。君は全然悪くないと皆言っていたよ。
今日のことは気にせず、その傷を早く治して・・・」
「スミス団長・・・今日の事で思ったのだが、
もうこんな茶番は辞めないか?」
「・・・・こんな茶番とは?」
「私を婚約者役に立てず、本物の婚約者を作って夜会に出ろという事だ」
ナナシの言葉にエルヴィンは息を詰め、背中に冷たい汗が流れる。