過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第70章 心からの微笑み
「君の言う通り、ローゼとシーナでは食糧事情がかなり違う。
富める者は変わらずの贅沢を、貧しい者には更なる貧しさを
課せられてしまっているのが現状だ。だから調査兵団に
求められているのはマリアの領土奪還と、
それを達成した後は巨人の領域への進出だ。
そうすれば食糧事情が激変するからね」
また調査兵団への熱い勧誘が始まったのかと思ったナナシだったが、
予想に反してエルヴィンは「この話は止そう」と言って肩を竦める。
「今日くらい職務を忘れたって罰は当たらないだろう」
茶目っ気たっぷりにウィンクするエルヴィンを見て、
ナナシは何となく今の言い方に引っかかりを覚えた。
「・・・お主が普段から言っている大義名分は
『職務』と考えておるのだな。常々、何故人類のために
そこまで自らの命を投げ出せるものかと疑問に思っていたのだが、
今私の中である仮説が立ったぞ」
彼の言う『人類の為』という大義名分が嘘だとは言わない。
ただナナシはそれを聞かされる度、エルヴィンが理解出来ずにいた。
人間は貪欲な生き物で、自分の為なら他者を蹴落とす事も
厭わない存在だ。
ただの人間が何の見返りも無しに、
そこまで他人に尽くせるものなのだろうか、と。
ナナシがそう言うと、笑顔を引っ込めたエルヴィンが
探るような目で見据えてきた。
どうやら警戒心を抱かれたらしいと思ったが
ナナシは苦笑しながら続ける。