過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第69章 デートしよう!
小物屋でナナシがぬいぐるみを凝視しているのに気づいて、
少しでも気に入ったのなら買って上げようと
有無を言わないようにさっさと会計を済ませたら、
酷く狼狽する彼が見れて楽しかった。
きっとナナシは生活必需品以外の物を欲しがらないだろうし、
仮に欲しいものがあっても遠慮して口に出す事は無いだろう。
ナナシの部屋は殺風景で、いつでも出て行けると
言われているようで嫌だった。
だから、俺は生活必需品以外の物を買い与えて、
少しでも調査兵団に根を下ろして生活している姿が見たかったのだ。
我ながら強引で稚拙な行動だったと思うが、後悔はしていない。
ナナシがぬいぐるみを凝視していた理由が
「エルヴィンに似ていたから」と言われれば、
後悔どころか嬉しさで彼に抱き着いてしまいたくなった程だ。
普通なら犬のぬいぐるみに大の男が似ていると言われれば、
嬉しくないと思うかもしれないが、俺は違った。
何故なら金色の毛並みと蒼い瞳の犬のぬいぐるみを前に、
自分と同じ金髪碧眼だったはずの亡き恋人よりも真っ先に
俺を連想してくれた事が本当に嬉しかったのだ。
まぁ、亡き恋人が犬っぽく無かったのかもしれないが、
それでもナナシの心に自分の存在が少しでもあるという事実が
俺にとっては最高の喜びに繋がった。
しかも、「私だと思って大事にしてくれ」と言った矢先に、
ぬいぐるみにキスをしたナナシは正に天使だった。
この時ほど、ぬいぐるみになりたいと思ったことはない・・・・。
嫉妬したら怒られた挙句、置いて行かれてしまったので
ここは少し反省した。