過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第66章 戦う理由
ナナシの不器用な優しさは、下らない会議で
ささくれ立ったエルヴィンの心を癒してくれる。
まさか会議から帰って何となく立ち寄った厨房で
ナナシと会えるとは思ってもいなかったし、
その上、手料理まで食べさせて貰えるとは予想外の事だった。
てっきり昨日の件で無視されたり嫌な顔をされると思っていたので、
エルヴィンの幸せ度数は跳ね上がっていく。
だが、このまま昨日の件を有耶無耶なままにするのは
精神衛生上宜しくないので、エルヴィンは調理中のナナシに
恐る恐る話し掛けた。
「昨日の事は・・・まだ怒っているかい?」
その言葉を聞いたナナシの体が一瞬ピクリと反応したのを
視界に入れながら、エルヴィンは言葉を続ける。
「あれは申し訳なかったと思っている」
「・・・『あれ』とは、どの事を言っているんだ?」
ナナシから掛けられた言葉にエルヴィンは逡巡した後、
「娼館に行く事を阻止した事だ」と告げると、
彼はギロリとエルヴィンを睨みつけた。
「足を舐めて鬱血を残した事に罪悪感は無い、という事か?
あれは立派なセクハラだぞ」
「・・・・・・それは・・・・・」
それを言われると言葉に詰まる。
エルヴィンにとっては愛情表現でもナナシにとってはセクハラらしい・・・。
意見の相違と考え方の違いは難しいな、等とエルヴィンが考えていると、
ナナシは大きな溜息を吐いた。