過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第9章 欲しい・・・
荒く息をしていたナナシが落ち着くように大きく息を吐き出すと、
ミケに向き直り転がっている巨体を指差し言い放った。
「おい、若造。この阿呆な小童を連れてとっとと帰れ」
冷静沈着で人より多くの事を考えているエルヴィンをアホと言って
子供扱いするナナシはある意味凄いという感想をミケは抱いた。
まぁ、今の行動のみを見ればアホとしか言えないが・・・。
それでも15歳くらいにしか見えないナナシが、
三十路越えの男を『小童』と呼んでいる事に激しく違和感を覚え、
聞こえてきた会話からミケなりの仮説を立ててみた。
「エルヴィンとは・・・昔からの知り合いなのか?」
それにしては二人の雰囲気(特にエルヴィンの)は異常だったが、
昔からの知り合いなら軽口を叩いたりするものだろう。
ミケとエルヴィンもそれなりに長い付き合いだが、
この二人はそれ以上なのかもしれない。
あまりそういう事を詮索する趣味は無かったが、
エルヴィンがここまで固執する存在を少しでも知っておきたかったのだ。
彼は言葉を選ぶように間を置き「・・・此奴が子供の時分にな」と答えると、
気絶しているエルヴィンの顔を覗き込むように見た。
無表情なはずの顔に慈愛のようなものを感じ取り、
ミケは目を細めその顔を見つめると「そうか…」と
返事を返す。
ミケはエルヴィンの重い体を持ち上げると、
「迷惑を掛けたな」とナナシに声を掛けて駐屯兵団を後にした。
その後姿を見つめながらナナシは穏やかな笑みを浮かべた。
「…1日に2人と再会出来ようとはな」
エルヴィンは兎も角として、
ミケは自分の事を覚えていないようだ。
それで構わないと思う。
願わくば、このまま彼らと関わりが深くなりませんように…。