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過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】

第9章 欲しい・・・




そういえば、今日自分はあいつの匂いを嗅がなかったなと
ミケは思い出した。

初対面の相手の匂いを嗅がないと気が済まない自分が
どうしてなのだろうか?と首を傾げる。

エルヴィンの異常行動のせいで、
いつものペースに持ち込めなかったのか。
・・・・いや、恐らくそうじゃない。

彼の傍にいても匂いを感じず、
本当に存在するのか疑わしく思えたのだ。

あれは普通じゃないと匂いを嗅がずとも本能的に
危険を察知したのかもしれない。


昔、一度だけ匂いの薄い人間に会った事があったが、
その人物が纏っていたのが血の匂いだと気づいた時の衝撃は
今でも忘れない。

もしも、かの人物が生きていたら、
今どこで何をしているのだろうか?

帰りの馬車の中でそんな考え事をしていると、
いつの間に目を覚ましていたのかエルヴィンが
ポツリと独り言のように呟いた。


「・・・初恋の相手なんだ」


懐かしむようにそう言ったエルヴィンは、
今まで見たこともない優しい表情でミケは言葉を失った。

団長として私情を殺してきたエルヴィンにも
そんな感情があった事に安堵と喜びを覚えたが、
一抹の不安を感じ確認した。


「あいつが欲しいのは、私情か?兵団のためか?」


プライベートにも踏み込んだ発言にエルヴィンはキョトンとしたが、
すぐに『調査兵団団長』の顔に戻ると「両方だよ」と告げる。


「昔からずっと欲しかったんだ。今日彼の才能を目の当たりにして
その思いが強くなったよ。昔から豪胆で聡明な人だとは思っていたけど、
想像以上だった。まさか、私が拳一つで沈められるなんてね・・・」


顎を擦りながら苦笑いを浮かべるエルヴィンにミケも笑う。


「鍛錬不足か・・・?」

「書類仕事ばかりでそうかもしれないね。
壁外調査も近いのに困ったことだよ」

「付き合ってやろうか?」

「あぁ、頼む。今とても暴れたい気分なんだ」


団長ではなく、ただの『エルヴィン・スミス』の顔に戻った彼の目には
獰猛な色が見えて、ミケはやれやれ・・・と肩を竦めた。


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