過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第65章 男か女か
扉がノックされ「入れ」と促すと、ナナシが入ってきたので、
エルヴィンは思わず頭を抱える。
足を怪我しているのに彼は全然大人しくなんかしていなかった。
『特別危険奇行種』事件の翌日に部屋へ行ったら、
彼は腕立て伏せをしていた。
その翌日に行ったら、片腕立て伏せと腹筋をやっていた。
その翌日に行ったら・・・・もう部屋にはおらず、
朝っぱらから兵団の敷地内を探し回り、
訓練場の木で懸垂をしていたナナシを発見したのだった。
もういっそベッドに括り付けておこうかと本気で考えたが、
ナナシなら縄抜けくらい簡単に出来そうだと諦めの境地に
達してしまった。
「どうしたんだい?」
「日常生活を送るのに問題無くなったから、
今日から仕事に復帰しようかと思う」
あの怪我がそんな早く治るはずがないだろう、と
エルヴィンは頭が痛くなる。
「・・・ナナシ、君の怪我は酷かったんだぞ?
肉が抉れていたんだ」
「それは知っている。私も確認したからな」
「だったら何故大人しくしていないんだ。
そんなんじゃ治る怪我も治らないぞ」
「もうほとんど治ってるから問題ない」
その言葉にエルヴィンは片眉を吊り上げ椅子から立ち上がり、
「それなら傷を見せてみなさい」とナナシへ詰め寄った。