過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第65章 男か女か
手術後、エルヴィンは疎か軍医でさえもナナシの傷を見ておらず、
ナナシは全部自分で傷の手当や包帯を取り替えていた。
ナナシが頑なに拒んだ結果だったが、一兵団を預かるものとして
これ以上ナナシの我儘を通させる訳にもいかない。
それにナナシも貴重な戦力で、資金が揃った今壁外調査も
直に実施されるだろう。
ここでナナシの怪我が悪化していたら大変である。
案の定ナナシは「嫌だ」と拒んだが、
エルヴィンは有無を言わさず彼をソファに座らせた。
彼の前に跪くように腰を落として、足を出すように視線で促す。
ナナシが渋々といった感じでブーツを脱ぎ、
スラックスの裾を捲ったので、
エルヴィンは足に巻かれていた包帯を取った。
そして、肉が抉れ縫合された部分を見て息を呑む。
そこには確かに傷があったが、それはほとんど塞がっており
膿や血が出ている様子は見られなかった。
普通たった四日でここまで回復するはずがない。
思わずまじまじと見つめていると、
ナナシから「もう良いだろう?」と声が掛けられ、
我に返る。
エルヴィンは足を離そうとしたが、
少し逡巡してナナシの左足をグッと握り込んだ。
「いっ!?痛い!何をするっ!?」
痛みに声を上げたナナシから、思いっきり頬に平手を食らった。
ジンジン痛む頬を抑えながら、エルヴィンはナナシの足に
ちゃんと感覚があった事に内心安堵する。