過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第61章 あの人は太陽、あなたはまるで月のよう
「・・・これだけ深い傷なのに痛くない・・・のか?」
「そう言えば、さっきから応急処置してても痛がる素振りが無かった。
・・・まさか、神経が傷ついてしまってるんじゃっ!?」
エルヴィンとハンジの会話を聞いて、
ナナシは「しまった!」と己の浅慮に舌打つ。
ナナシの身体は戦闘に特化して作られているため、
痛覚を無くす事も可能だった。
足に傷を負った直後、痛みで意識を失わないように
痛覚神経を遮断したままでいたのでその事まで気づけなかったが、
きっとこのままでは彼らに不審がられてしまうだろう。
・・・かといって、痛覚を戻してしまったらかなり辛いし、
正直に「痛覚切れるんです」などと言ってしまったら、
『人類のため』と称して解剖されかねないので、
ナナシが取るべき行動は必死に痛がる振りだった。
「イタイよ?とってもイタイ。のた打ち回るほどイタイけど
ガマンしてるのだぞ。そのくらい察してくれ」
だが、ナナシはこういうシチュエーションでのアドリブが
とても苦手だった。
若干片言になって棒読みになっていたかもしれないが、
何とか誤魔化されてくれないだろうかと必死で祈る。
「そうか、それ程までに痛いんだね。君は何て我慢強い子なんだ。
やはり私がこのまま君を運ぼう。だから安心して私の腕の中で
眠っていなさい。全ての事を私に任せてくれれば問題ないから大丈夫だよ」
エルヴィンが誤魔化されてくれたっぽいけど、
嬉しくない食いつかれ方をされた気がする。
つーか、全てってどこからどこまでだ?
そんな言われ方すると逆に不安しか感じないのだが・・・・。