過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第57章 修羅場
大人しくなったナナシを一瞥した後、
エルヴィンはミケに身体を向け、もう一度
「何をしていた?」と聞き直す。
ミケはエルヴィンの顔を真っ直ぐ見据え、
「言い訳はしない。俺はナナシに欲情して襲い掛かっていた」
と、告げた。
「そうか・・・。それは合意か?」
「いや・・・俺が一方的にやった」
「ミケ、歯を食いしばれ」
エルヴィンはテーブルに置かれていた布巾を拳に巻くと、
思いっきりミケの頬を殴り付けた。
ミケもそれを甘んじて受け入れる。
口の端が少し切れて、頬が赤く腫れ上がった。
エルヴィンが「歯を食いしばれ」と前置きをしてくれただけでも
十分有り難い事だったとミケは思う。
エルヴィンはこれまで変態的な行動ばかり取って
強引にナナシを口説いてはいたが、強姦みたいな真似は
(一応)した事はなかった。(全部未遂で終わっている)
それだけでエルヴィンがどれだけ本気でナナシを愛しているのか、
長い付き合いのミケにはわかっていたが、
ミケはつい誘惑に負けて手を出そうとしてしまっていた。
エルヴィンとの友情を裏切ったようなものだと
自己嫌悪に浸っていると、エルヴィンが静かに口を開く。
「途中で踏み止まった事は褒めてやるよ、ミケ。
俺やリヴァイだったら止まらなかっただろう」
「・・・だが、エルヴィン。俺は・・・」
「無防備で無意識に誘うナナシにも問題がある。
この子にも充分わからせないといけないな」
エルヴィンの目は全く笑っていなかったが、
ミケはふと気になった事を尋ねてみた。