過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第54章 ナナリー
「まだ腰が砕けるくらいのキスしかしていませんが、
彼女を抱いて眠ったことはあります」
余計な一言にピクシスが明らかに青筋を立てたのがわかった。
「よくも・・・っ!儂ですら隙を突いて尻を触るくらいしか
出来ておらんかったのに、接吻した挙句に寝ただと・・・っ!?」
「・・・・・・・・・・ピクシス司令。私のナナリーに
そのような事をなさっていたのですか?それはセクハラです。
お年をお考え下さい」
「まだ若いもんには負けんぞ!いつかはあやつと・・・と
思っておったのに、こんな若造に・・・っ!!」
そこまで言ったピクシスは背後からグスタフに口を塞がれ
ズルズルと連れて行かれてしまった。
残ったアンカはエルヴィンへ深々と頭を下げ
「申し訳ありません、司令はお酒をしこたま飲んでいたので
支離滅裂な発言ばかりしておりました」
と、あくまでピクシスはただの酔っぱらいで、
口にしたことは戯言だとアピールする。
エルヴィンもその意を汲んで
「あぁ、勿論わかっているよ。ピクシス司令が若い女性に
手を出そうとしていたとか、お尻を触ったりして
セクハラをしていたなどという事実は存在するはずが無い。
何と言っても南領土の最高責任者なのだから・・・ね」
と言うと、アンカは少し安堵の表情をして、
また深々と頭を下げる。
去ろうとするアンカをエルヴィンは「あ」と声を上げ止めると、
極上の笑みを向けた。
「司令が私のナナリーに手を出さないように
気をつけておいてくれないか?彼女を奪われてしまったら
私は気が狂って有る事無い事何かを吹聴してしまいそうだから・・・」
よろしく、と微笑むと、アンカは顔を強張らせながら
「気をつけます」と言って今度こそ去って行った。