過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第6章 一触即発
よくわからない奴の作ったものなんか食いたくなかったが、
昨日も食べて美味しかったし、
ここで食べなければ不審を抱かれそうだと一口齧る。
中に入った黒いものが甘くて、
疲れや尖った神経が和らぐのを感じた。
「なぁ、あんた。どうして菓子屋とかにならないんだ?
これだけ美味くて変わったものなら商売になるだろうに・・・」
それこそ貴族や裕福な商人にはバカ売れだろう、と
純粋に思って口に出すと、ナナシは三人の前で初めて破顔した。
「イザベルと同じ事を言うのだな。流石『家族』といった所か・・・。
私が作るものは材料がなかなか手に入らなくて店には出せん。
こうして趣味で作ったほうが拘れるしな・・・」
「勿体無ぇな。あんたが店出したら手伝っても良かったのに・・・」
「ちゃっかり雇われるつもりだったのか」
「当然だろ」
ニッと笑ったファーランの笑顔はどことなくイザベルに似ている気がした。
血が繋がっている訳では無いとは思うが、一緒に暮らす内に
似てきたのだろう。
「美味いが・・・昨日のダンゴの方が好みだ」
ポツリとそう零したのはリヴァイで、
静かに饅頭を咀嚼していた。
「あ、俺もだよ兄貴!この饅頭も美味いけど、
昨日の奴の方がすっげー印象に残ってんだ」
「まぁ、確かにダンゴの方が見た目的にインパクトあったかも・・・」
イザベルとファーランが話に乗っかり、それぞれの感想を口にし合う。
この世界に醤油は無いからみたらし団子の方が印象が強かったのだろうか?
「ふむ、そうか。今後の参考にする」
素直に頷くナナシにイザベルは眉尻を下げて
「もしかして怒ったか?」
と尋ねた。
一瞬何の事かと考え、お菓子の批評についての事だと思い当たり
否定する。
「何故怒る必要がある?他人の需要を聞くのはマイナスとは思わん」
ナナシの言葉にイザベルはホッとしたようだった。
「それで、どこを襲撃するんだ?」
リヴァイが仕事の話を促してきたので、
ナナシは懐から見取り図を出して広げ話し始める。
「シーナの南東領主のノイラート卿の屋敷だ。
そこの宝物庫を襲撃する。なるべく見張りの合間を縫って行くつもりだが、
宝物庫前の見張りは殺す事になるだろう」
「マジで大物貴族じゃねぇか」