過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第6章 一触即発
リヴァイが心の中で葛藤していると、
イザベルが控えめに声を上げた。
「なぁ、兄貴。ナナシは信用出来るよ。
もし俺達が邪魔なら、菓子とかに毒入れてるはずだ」
イザベルの言う信用できる根拠は説得力に欠けるが、
イザベルからしたらやっと出来た同い年くらいの友達だ。
庇いたい気持ちはわからないでもない。
以前いたイザベルの友達は地下街という無秩序な世界で生きていくには
弱すぎて、早々に死んでいってしまった。
イザベルの友情と自分達の身の安全を天秤にかけるまでもなく、
後者が正しい選択のはずだ。
だが・・・・・
「もし、俺達がこの仕事を受けなかったらどうする?」
ナナシに問う。
目の前の人物がどう答えるのか。
「別にどうもしない。もしも、この情報を売った場合は
・・・それ相応の覚悟はしてもらうがな」
その答えでリヴァイは少し理解した。
こいつは自分の力量とリヴァイ達の力量を計って
勝てると確信した上で、話を持ち掛けたのだ、と。
要するに、リヴァイ達はいてもいなくてもナナシには何の関係もなく、
戦力として見てもいない。
駄々をこねるファーランを黙らせるためだけに、
この仕事をするかと持ち掛けただけなのだ。
それはリヴァイのプライドを刺激するには十分だったが、
今は仕事を受けるかどうか考えねばならない。
黙り込むリヴァイに痺れを切らしたファーランが
ナナシにどれくらいの稼ぎになるのか聞いた。
「それはお主達次第だが…調べた限り農園や鉱山も持っているようだから
資産は相当ある」
それなら警備の数も相当だな、とリヴァイは考えたが、ファーランは違ったらしい。
「受けようぜ、リヴァイ。こんな美味しい話滅多に転がってない。
下調べもせずに済むなら楽だ」
その下調べに不備が無ければの話だけどな、と
小声で耳打ちしてくるファーランにリヴァイが溜息を吐いて
了承すると、ファーランはナナシに向き直った。
「受けるぜ、その仕事。
ただし、配置図とか段取りとか細かく打ち合わせをしたい。
俺はファーラン、こっちはリヴァイってんだ。よろしく」
「ナナシだ。打ち合わせはきちんとするつもりでいる。
何なら今からでも良いぞ。菓子もあるしな」
もぐ、と饅頭を頬張りながら言うと、
ファーランは手に持ったままの饅頭に視線を落とした。