過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第6章 一触即発
「昨日アンタに貰ったダンゴってやつ?美味しかったよ、
ありがとう」
愛想良く話し掛けるファーランを一瞥したナナシは
抑揚のない声で言った。
「何を怒っている?殺気が出ておるぞ」
刹那、ファーランは懐からナイフを取り出し
ナナシの喉元へと宛がった。
状況を読めないイザベルがオロオロしてファーランを止めに入るが、
ファーランはそれを無視しナナシに話し掛ける。
「アンタ…凄腕なんだってな。その割にはあっさりナイフを
突き付けられてるけど、爺さんの台詞はハッタリだったのか?」
「ファーラン、何すんだよ!離せよ!」
「黙ってろ、イザベル。良いか、よく聞け。
こいつに昨日言ってた仕事を取られたんだよ」
「…え……?」
イザベルの目が大きく見開かれ、リヴァイとナナシの顔を交互に見遣った。
その顔は「嘘だろ?本当なのか?」と言っていて、
二人の代わりにファーランが情報屋でのやり取りを説明してやると
イザベルは「どうして!?」とナナシに詰め寄った。
「成程…その件か。何故このような状況になっているのかと思えば、
実に下らぬことだったな」
「下らない?アンタ本当に今の状況がわかって言ってるのか?
俺がこのナイフを動かせばアンタの命は無いんだぜ?」
「…ほう?」
人差し指と親指でナイフを摘むとナナシは挑発するように言った。
「やってみよ。動かせるものならば…」
「おいおい、この状況で強がらないでくれよな」
苦笑を浮かべ、脅しのために薄皮一枚だけを傷つけようと
手に力を込めたファーランは手元の違和感に気づき冷や汗を流した。
どうやってもナイフが動かない…。
押しても引いてもナイフを動かすことが出来ず、
ならばと空いている手で腰から新たにナイフを抜こうとした。
「止せ、ファーラン」
今まで黙って見ていたリヴァイがファーランを制止した。
リヴァイの方へ視線をやると、彼もナイフを握っていたが
ナナシの隙を窺うようにしていて動かない。
その緊迫した様子にファーランとイザベルも息を呑んだ。