過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第41章 秘密の共有と隠し事
「私は君に重く伸し掛かる秘密を共有する仲間になりたい。
君はその秘密に傷つき、かと言って捨てることも出来ず
孤独に生きてきたはずだ。私は少しでもその痛みを
分かち合いたいと考えている。誓って他言も悪用もしない。
君の意にそぐわなければ殺してくれたって構わない。
ソロモン団長の残した技術をどうしても知りたいんだ」
『秘密を共有する』『分かち合いたい』と弱った心を擽るような言葉を
並べていくエルヴィンにグラリと決意が揺らぎそうになるのを
ナナシは感じていた。
今まで必要以上に構えていたから、エルヴィンの甘い言葉にも
揺らぐこと無くこれたが、ソロモンを知っているエルヴィンに
そんな言葉を投げ掛けられて動じずにはいられなかった。
「い、今はもう・・・・・・。ソロモンが死んで・・・・
出来なくなった・・・から」
絞り出すように言うとエルヴィンは残念そうな顔をした。
「そうか・・・やはり、団長や幹部にしか出来ない手術なのだね」
エルヴィンの言った事は正確には違う。
手術はナナシが行っていたので、
ソロモンや幹部は詳細な手術方法は知らないままだった。
ただ、団員を改造するにあたって超人的な肉体を作るナナシの細胞と、
それを中和し人間の身体に馴染ませるソロモンの細胞の一部が
必要だった。
ソロモンはナナシと直接契約した人間だったが故に特別だった。
彼以外の細胞では中和する事は出来ないし、
もしも彼の細胞無しで改造手術を行えば
その人間の身体は力に耐え切れず弾けてしまうだろう。
これはエルヴィンには言わない方が良い。
どうせ彼の望む改造手術が行えないのは変わらない。
ナナシが黙り込んでいると、エルヴィンは頭を切り替えたらしく
『狼』が使用していた戦術や技術についてまた質問を始めた。
今はもう使えないものや、知られても支障のない質問には
ある程度答えてやると、エルヴィンは子供のように
目を輝かせて笑った。
無邪気に笑うその姿に
「普段からそうしていれば可愛げがあるのに・・・」と
心の中で残念に思ってしまう。