過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第6章 一触即発
交渉の余地もない言い様にファーランは悔しそうに顔を顰め
ナイフを取り出そうと懐に手を入れた時、
第三者の声が聞こえハッと我に返った。
「クレイグ…」
控えめな声量で抑揚のない声が店の中に響く。
三人がその声の主を辿ると、店の奥から布で顔を隠した人物が
出てきてそれぞれを見据えるように視線を巡らせた。
その人物を認識した瞬間、リヴァイの背筋がゾクリと震えた。
何をするでもなく立っているだけの存在が酷く恐ろしいものに思え、
クレイグからその人物へと警戒を向ける。
・・・女か?
布の合間から覗く髪は銀髪で、肌も抜けるように白い。
氷のような蒼い瞳はガラス球のようで感情があるのかさえ疑わしいものだった。
着ているものも変わっていて白い着物の上に
花弁が散った青い打ち掛けのようなものを羽織っている。
目を逸らした訳ではないのに、いつの間にか移動したその人物は
ファーランの手に軽く触れ、クレイグから手を離すようにと促した。
呆然とするファーランもされるがまま手を離し、
それを確認すると
「出かけてくる」
と言い残し、店から出て行った。
ほんの数秒の出来事のはずが全力疾走直後のように息が乱れ、
リヴァイは本能で「成程」と納得した。
「あれか…腕の立つ御仁ってやつは…」
ボソリと呟かれたリヴァイの言葉にファーランは目を見開いた。
「じょ…冗談だろ?確かに妙な奴だったが、あんなガキが
俺達・・・リヴァイより上なもんかよ」
ファーランはリヴァイを崇拝に近い感情で見ている。
実際リヴァイは負けなしで強い。
あんな男か女かわからない奴にリヴァイが負けているとは思えなかった。
「ほう?流石じゃなリヴァイ。その通りじゃよ」
リヴァイの直感を褒めつつクレイグが誇らしそうに言うと、
ファーランは店から出て行った人物を追い掛けるように走り出した。