過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第36章 模擬戦
――十分後、
目を覚ましたナナシは
いつの間にかエルヴィンに凭れ掛かっていた事に驚き、
慌てて謝罪した。
誰かに凭れ掛かって眠ってしまっていたとは思いも寄らず、
気恥ずかしさが込み上げた。
顔を真っ赤にしているナナシに、
エルヴィンは屈託のない笑みを浮かべる。
「別に重くなかったし気にしないでくれ。
それより体調はどうだい?」
「大丈夫だ。お主が枕になってくれていたお陰で眠りも良かったから・・・」
ありがとう、と言えなかったお礼を告げると、
エルヴィンは更に笑みを深めた。
純粋な笑顔に「普段からそうしていれば良いのに・・・」と
つい思ってしまうが、団長であるが故に
表裏が必要なのだろうと自分を納得させる。
多分エルヴィンは本当は優しい人間のはずだ。
民衆からは悪魔だの人でなしだと悪口を言われているが、
人類には自分のような人間が必要だと思うからこそ
冷徹になっているのだとナナシは思った。
純粋過ぎたが故の狂気でもあるかもしれないが、
幼い頃にあんなことが無ければ人間達の言う
「まともな人間」に育ったかもしれない。
そんな詮無い事を考えていると
エルヴィンから手を差し出され、
にこりと微笑まれたので大人しくその手を取り立ち上がる。
「行こうか。きっとリヴァイ達が首を長くして待っているよ」
「首と言うよりブレードを構えて待っていそうだが・・・」
ナナシのジョークに二人で笑いながら、並んで歩く。