過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第36章 模擬戦
寝息を立て始めたナナシにエルヴィンが笑みを深めていると、
林の奥から気配を殺してリヴァイが近づいてきたので、
口に人差し指を当てながら『先に行っていろ』と伝えると
彼は眉間に皺を寄せて指示に従った。
これでナナシが途中で起きることはないだろうと安堵していると、
ナナシの身体がエルヴィンとは反対方向に傾いたので
慌てて彼を支えて自分の肩にその頭を凭れさせる。
無防備に眠り続けるナナシに、
余程身体が悪いのかと思いながらエルヴィンは思考の海に沈んだ。
臓器が無いのなら誰かから移植する事が出来ないだろうか?
マウスでの移植実験は成功した事があると新聞に載っていたが人間ではどうだろうか?
拒絶反応が起こる場合があるらしいが、
そのメカニズムはよくわかってないらしい。
問題はどこの臓器が無いか、だ。
どこから臓器を調達するかというのは問題にならない。
伝手を使えばどうにでもなる。
最悪、地下街で捌かれている臓器か人を買えば良い。
そんな狂気に駆られる程、ナナシの能力は人類に必要なのだ。
今眠っているナナシの服を剥いで身体を調べるという選択肢もあるが、
高確率で失敗に終わるだろう。
弱っているとはいえ、自分がナナシに勝てるとは思えない。
今はまだ情報収集に力を注ぐべきだと結論付けて、
エルヴィンも静かに目を閉じた。