過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第36章 模擬戦
結局、二人並んで座る羽目になった。
ナナシはエルヴィンが自分を気遣って
一緒にいてくれているとわかっていたが、
彼が素知らぬ振りをしていたので
お礼さえもなかなか言えなかった。
「臓器が足りないと言っていたが、どこの臓器が無いんだ?」
暫しの沈黙の後、唐突にエルヴィンから話を振られたナナシは
一瞬何の事か逡巡したが、すぐに自分の身体の事だとわかり返答する。
「秘密だ。お主の問いに答えてもどうにもならんからな」
「君の身体はもう治らないのか?」
直球の言葉にナナシはどう答えるべきか悩む。
チラリとエルヴィンを盗み見てみると、
彼は地面を凝視したまま何事か考えているようだった。
「・・・・・治らない・・・だろうな」
「何をしても?」
間髪をいれず尋ねてくるエルヴィンにナナシは苦笑する。
「なくしたものは二度と戻らない・・・というのが、
この世で唯一の理だと思っておる。
一度手放したものも同じだ。私は別に治らなくても構わないと・・・」
「それは君が望んで不自由な身体でいる・・・という事で良いのか?」
言葉の途中で被せるように言ったエルヴィンはいつの間にか
ナナシを見ていて、その瞳の強さに圧倒された。
だから・・・
「・・・・お主の好きに取るが良いさ」
としか言えず、エルヴィンの視線から逃れるように目を閉じた。
隣にいるエルヴィンからの返答は無い。
目を閉じていたら少し眠くなってきたので
彼に「10分だけ眠る」と告げると
「隣にいるから安心して眠りなさい」と優しい声色が返ってきた。
暴走が少なくなったエルヴィンになら
多少隙を見せても大丈夫だろうと考え、
彼に甘えて暫しの眠りに就いた。