過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第36章 模擬戦
気づけばナナシの背中を優しい手付きで擦り、
自分に出来ることはないか、と尋ねている始末。
実に自分らしくないと心の中で苦笑した。
「水・・・井戸から水を汲んできてくれ。血を・・・流したい」
「わかった。私が戻ってくるまでここから動くな」
井戸までは目と鼻の先だったが、
エルヴィンは全速力で水を汲みナナシの元へ戻った。
悪魔とも呼ばれた調査兵団団長が一人の人間の為に
ここまで必死になっている姿を見られたら、
どう思われるだろうか?
桶に水をいっぱい汲んで来ると、
大分咳が治まった様子のナナシが不安げにエルヴィンへ話し掛ける。
「お主の手にも血が付いてしまっただろう?洗ったか?」
「あぁ、ついでに井戸で洗ってきたよ。
それよりも水を飲むかい?」
「まずは手を洗いたい・・・気持ちが悪い」
水で両手を洗うナナシは猶も何か言いたげにエルヴィンに視線を向けるので、
不思議に思っていると「病気じゃないから・・・」と言われ、
何の事かと考える。
「感染とか心配しなくて良い。
私の吐血は内臓機能の低下が主な原因だから・・・」
その言葉で漸く合点がいった。
言われるまでそんな心配もしていなかったのに・・・。