過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第5章 地下街のゴロツキ
「代行!!お久し振りです!」
目的地の店に着くと、
年老いた男が涙を浮かべながら跪きナナシを出迎えた。
ここは地下街では名の知れた情報屋の店で、
齢90を超える老人はナナシの秘密を知る数少ない『仲間』の一人だ。
かつての役職名でナナシを呼び、
未だに忠義を尽くしてくれる口の堅い男の存在は
とても有り難い。
「代行は昔とお変りなく……」
「そういうお主は少々老けたな、クレイグ」
このやり取りも毎度お馴染みの光景で、
老人は皺くちゃの顔を余計クシャクシャにして笑ってくれる。
「…ヴィレムがいなかった」
「……………」
ナナシの言葉にクレイグは沈痛な面持ちで
「2年前、老衰で…」
と告げた。
「……そう…か」
「気に病まないで下さい。
我々はあなたのお陰で地獄ではない場所で死ねるのです。
散った同胞には申し訳なく思える程の幸せです」
「…………」
この地下街には、生き残ったかつての同胞が
数人潜んで暮らしている。
たまたま運良く壁外に放り出されずに済んだ仲間を
ナナシが保護し、この地下街に連れてきたのだ。
それ以後、仲間達は素性を隠し地下街で
ずっと暮らし続けていたのだが、
老いないナナシとは反対に仲間は歳を取っていき死んでいってしまう。
老衰なら良い方だろう。
病死や殺された仲間もいる。
この地下街で死ねる事が果たして『幸せ』に当てはまるのかわからない。
それでも巨人と対峙したことのある元兵士の彼らは口々に幸せだと言うのだ。
恨み事をナナシには決して言わない。
だから、ナナシも後ろ向きな事を言わないようにしている。
「あやつの好きな菓子を持ってきたというのに仕方がない。
供えてくるとしよう」
「そうしてやって下さい、代行。あと後でお話が…」
「わかった」
憧れの眼差しで見つめてきた少年兵が、
今では孫を見るような眼を向けてくるのだから時の流れは凄いなと素直に思う。
情報屋の店を出て、
ナナシは仲間の家があった場所に向かった。