過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第5章 地下街のゴロツキ
ヴィレムの家があった場所はある意味地下街では一等地だったかもしれない。
昼間は陽の光が当たるその場所を彼は死に物狂いで守っていた。
崩れた廃屋の中に入り、懐からお菓子を取り出し
どこへ供えようかと辺りを見回していると
突然背後から何者かに襲われ、
反射的に相手を蹴飛ばしてしまった。
綺麗に決まった蹴りで相手は壁に激突してしまったが、
呻き声が聞こえてくるので死んではいないようだ。
「うぅ……」
と呻きながら瓦礫から這い出てきたのは、
赤毛の少女だった。
地下街だから強くなければ生きていけないが・・・
・・・何というか頑丈だと思う。
「ちっきしょー!そいつを寄越せ!ガキ!」
・・・・・?
ガキ?
どこにガキがいるのだ?とナナシが赤毛の少女の言葉で
周囲を確認していると、彼女は怒ったように叫んだ。
「おまえだ!白髪のおまえ!
その見たこと無い食いもん寄越せ!痛い目見たいのか!?」
…痛い目見たのはそっちだろうが、というツッコミを入れたかったが、
ガキにガキと言われるのは心外だ。
少しボコってやろうか?
「欲しければ奪ってみよ、小娘」
「おう!やってやらぁ!吠え面掻くなよ!」
思った通り挑発すると少女はまた襲い掛かってきた。
両手に大事に菓子を持っているので片足のみで応戦していると
少女の怒りがヒートアップしていく。
大雑把なその動きは読みやすく、
ナナシは少女の足を引っ掛けたり踵落としを食らわせたりと
大人気ない行動ばかり取った。
致命傷を与えずじわじわ嬲るやり方は本来好まないが、
たまには良いだろうと自己弁護する。
ダメージが蓄積された少女はついに床に突っ伏し、
悔しそうに拳で床を叩いた。
感情を表に出し悔しがる少女の姿は、
彼女がそれ程擦れていなくて大事に育てられているんだろうな、
と思わせるものだった。
地下街ではまず生きていけないタイプだ。
流石に罪悪感が生まれる。