過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第29章 綺麗な物語は万人に受け入れられる
「私が若い頃・・・言いがかりをつけられた私を助けてくれたのが
『彼女』でね。一目惚れだった・・・・」
正確には幼少期で、言いがかりなどではなかったが、
そこは思い出補正で誤差の範囲内だと自己弁護する。
「その時、失礼ながらも尋ねたんだよ『女性ですか?』と。
そうしたら『彼女』は、自分は女性だと答えた。
残念な事にその時名前も住んでいる場所も聞けずに別れてしまってね。
それから『彼女』と会うことも出来ず悶々としている内に、
いつの間にかこの歳になってしまった。
しかし、運命の悪戯なのか、この前の壁外調査前に再会出来た。
・・・その時からだ。『彼女』が自分を男だと
言い始めてしまったのは・・・・」
一度言葉を区切り、エルヴィンは切ない表情を作った。
「情けないことに私は『彼女』に忘れられない男がいても構わないから
傍にて欲しいと懇願したが、『彼女』から言われた条件の中に
『自分への恋心を捨てろ』というものがあってね。
全ては人類と調査兵団の為にと、能力欲しさから
私はそれに承諾してしまったんだ」
「・・・そ、そんなっ!」
口元を両手で抑えたペトラが目を潤ませながら非難めいた声を上げたが、
エルヴィンはそれを咎める事はせず目を伏せた。
「だが、ここだけの話…私は『彼女』への想いを捨ててはいない」
先程とは一転して、どういう事なんだ、と女性であるペトラは
期待の目を向ける。
「これが『彼女』に知られるとまずいから黙っていて貰いたいんだが、
先程も言ったように『彼女』が自分を女として
受け入れるようになるまで待つつもりなんだ」
「待つとは、何を・・・?」
グンタが恐る恐る尋ねると、
エルヴィンは綺麗な微笑を浮かべて宣言した。