過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第25章 腹の探り合い
エルヴィンは額に手を当て、
大きく溜息を吐きながら思案した。
確かに目的を果たすためには私情は最も邪魔なものだと思う。
それが普通の女で侍るだけだったら、尚更いらない。
しかし、ナナシは邪魔どころかエルヴィンに役に立つ人材で、
幼少期からの恋情を抜きにしても傍に置いておきたい存在だ。
立体機動の腕は別として、
観察眼や戦闘力はリヴァイと同等かそれ以上だと思っている。
ここで個人の私情を挟むべきではないとわかっているのに、
なかなかそんな決断が下せない現実に内心苛立った。
自分はこんな迷う人間ではなかったはずだと、目を瞑り冷静になるように努める。
何故、ナナシは自分をここまで敬遠するのだろうかと考えたが、
昔から彼の本心はよくわからない。
表面的にわかることは多いが、
その奥深くはエルヴィンも立ち入れない聖域だった。
異常な強さを持つ癖に、
酷く消極的な考え方を持つ彼の過去が気になって仕方がない。
そこで、ふと先の壁外調査で連れて行かれた地下室を思い出した。
あそこは彼の過去の手がかりになる唯一の場所だったが、
今はもう立ち入ることは出来ない。
引き上げる際、こっそり家主の日記帳を拾ったのだと思い至る。
忙しなく後処理に追われていたため、
あれが未だに読めるのか確認しないまま引き出しの奥に仕舞っていたのだ。
あれが読めれば何か分かるかもしれない・・・
それには、無茶な条件を呑んでもナナシを傍に引き止めておく必要がある。
条件の細かい内容は契約してから何とでもしてみせる、と
密かに口角を吊り上げた。
そこまで考えればエルヴィンの決断は早かった。