過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第4章 自分にとって匂いは世界そのものだ
匂いは世界そのものなのかもしれない…。
広い世界には自分の知らない匂いに溢れているのだろう。
ふと空を見上げると綺麗な青い空が広がっていた。
流れる雲を見て、
あれにも匂いがあるのだろうかという好奇心に駆られたが、
人間は飛べないのでその匂いを嗅ぐことは出来ない。
兵士の使う立体機動装置を使っても
あんなに高くは飛べないだろう。
雲を追い掛けるようにフラフラ歩いていると、
何かに蹴躓いて草のベッドにダイブする羽目になった。
草の上に転がりながら、
何に躓いたのかと顔を上げ確認すると、
人形のような人間だった。
蹴ってしまったのにピクリともしない身体を怪訝に思って、もしかして気絶しているのか…それとも死体なのか、
と恐る恐る覗き込んでみると、
どうやら寝ているだけらしく僅かに胸の辺りが
上下に動いていた。
生きている事にホッと安堵したものの、
少年は驚愕の事実に気づいた。
――匂いがしない…?
生きているものには必ず匂いというものがある。
少年はそれによって近くに何があるか認識出来るのだが、
目の前で寝ている人間からは生きている匂いが感じられなかった。
顔を布で覆っていて性別はよくわからないが、
恐らく自分と同じくらいの年齢だろう。
穏やかに閉じられた瞼は一向に開く気配が無い。