過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第4章 自分にとって匂いは世界そのものだ
「――スンスン」
地面に咲いた花の匂いを嗅ぎながら、
少年は良い香りだと思った。
緑豊かな丘に咲くその花が何という名前なのか、
少年は知らない。
多少の興味はあったが、調べるほど花に興味は無く、
むしろその匂いの方に執着していた。
年齢の割に大柄な体を丸めながら、
他の花や草の匂いを嗅いで満足気に鼻を鳴らす。
少年には悪癖があった。
つい誰彼構わず匂いを嗅いでしまうのだ。
それが人であっても物であっても同じで、
匂いを確かめずにはいられない性分を周囲の人間は
不気味なものを見るような目で見つめた。
実の両親でさえも少年を気味悪がったが、
少年は匂いを嗅ぐことをやめなかった。
やめてしまったらそこで自分の『個性』というものを
失くしてしまいそうで、それは本当に生きていると言えるのかと疑問に思ったのが発端だった。
生まれつき良い体格であったため
同世代の子供からの暴力は無かったが、
後ろめたさから人と視線を合わせることが
苦手になってしまい、誰とも目が合わないようにしていた。
伸ばした前髪で目を隠し、
人目を避けて匂いを嗅ぐ自分は
狂っているという自覚はあったが、
今更それを改める事が出来ない程匂いにのめり込んだ。