過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第21章 口説く!
何となく蒼い色が見たくて視線を外に向けると、
綺麗な青空が見えた。
愛しい団長が処刑された日も、
『迅鬼狼』が皆殺しにされた日もこんな綺麗な空だったなと思い出す。
「・・・知ってる?狼は皆人間に殺されてしまうんだよ。
・・・それが良い狼でも悪い狼でも関係無い。
ただ、そこにたまたま居たからという理由だけでも
殺されてしまうんだ」
何故、狼は人間に嫌われているのだろう。
人間の方がよっぽど化物じゃないか。
無意識に発した言葉が、ナナシを幾分か冷静に戻した。
別にエルヴィン達に自分の事を知られても問題は無いのだ。
意味のない情報はある程度与えてやっても構わない。
「ナナシ・・・?今のはどういう意味だい?」
「・・・何でもない。それよりも手を離せ」
乱暴に手を振り払われたエルヴィンは、
いつもの調子になったナナシに困惑した。
今までエルヴィンのペースでいたはずなのに、
何がきっかけだったのかナナシのペースを取り戻してしまった。
こうなっては簡単にはいかないだろう。
彼がペースを崩す『愛している男』の話題を
もう一度持ってきて様子を見るしかない。
「それにしても、君がそこまで入れ込むなんて妬けるね。
どんな人だったんだい?」
無理のある話の入り方ではあったが、
ナナシの不意を突くにはこうやるしかない。
そう思って言ったはずが、彼は淡々とその問いに答え、
エルヴィンの思惑とは外れた。