過去と、今と、未来の狭間で【進撃の巨人 エルヴィン 前編】
第18章 『迅鬼狼』のアジト
小さな呟き声に気づいたリヴァイが怪訝な表情でナナシを見遣り
「どうした?」と尋ねたが、彼は奥を見据えたまま動かない。
リヴァイも部屋の奥を見たが、そこには部屋を仕切るように
カーテンが掛かっていて奥に何があるのかわからなかった。
「・・・まだ奥があるのか?」
ミケもそんな二人に気づいて声を掛けると、
奥に歩き出したナナシを視線で追う。
エルヴィンとハンジも本から顔を上げ、
何事かとナナシの行動を見守った。
「逃げなかったのだな・・・エッカルト」
ナナシが勢い良くカーテンを開けると、
そこには椅子に座った状態の老人がおり全員が言葉を失った。
生きているのではないかと疑うほど腐敗や腐臭も無く
鎮座している様は蝋人形のようだったが、それは間違いなく死体だった。
胸には短剣が突き刺さっており乾いた血が付着している。
「・・・自決か。他の者に命を取られることを嫌ったか」
取り乱すこと無く淡々と話すナナシにエルヴィン達は戸惑った。
この死体はこの家の主で、
言葉から察するにナナシとは旧知の間柄なのだろう。
それなのに彼は嘆く様子もなく遺体を静かに見据えているだけだった。