第1章 夢中
「あ〜、今年ももう終わりアルな〜」
「早ぇなァ、もうやんなっちゃうなァ。年取るごとに早くなって行くよー、一年過ぎるのが」
太陽がとっくに沈みきり、空は夜の表情を覗かせている時刻。万事屋の畳部屋では例年のように引っ張りだされた炬燵が、部屋のど真ん中を占拠していた。更にその炬燵の中には、厚手のちゃんちゃんこを着込んだ万事屋の住人が全員収まっている。
襖に近い炬燵の一辺には銀時と菊が共に座り、そこから時計回りに神楽と揚羽の組み合わせ、定春一匹、そして新八一人が順に入っていた。既にそれぞれが思い思いのくつろぎ方をしている。炬燵の上にはお茶もミカンも完備されており、何も不満はない。そんな心身共にゆっくり出来る空間が仕上がれば、自然としんみり感のある会話が始まった。
その会話を始めた張本人の一人、坂田銀時はお茶をズズーッ、と汚らしい音を立てながら飲む。渋い飲み物を喉に通し終え、持論の続きを語る。
「この調子じゃあ、ジジイになった時はF1カーが通り過ぎる並みのスピードで、一年が過ぎるんじゃねーの」
「私はまだまだ大丈夫アル」
唯一、銀時の言葉に反応を返したのは神楽だった。銀時よりも遥かに持っている「若さ」を主張するような言葉を発し、手にしていたミカンを丸ごと口に放り込む。しかし、銀時もかつては若かった。神楽の余裕を否定できるほど、時の恐ろしさを知っているつもりである。
「いやいや実際、俺なんかベン・ジョンソンが走り去るくらいの早さまで来てるからね、もう。来てるからね、そこにベンが。お前らも若いからって調子に乗ってるとすぐ来るよ、ベンが」
「マジかヨ。ベンが来るのかヨ。私、ベンよりカールの方が良いネ。かっけーアル」
スポーツに興味のない人間には、いまいちピンとこない例えだ。しかし二人は、若干マニアックな会話である事を気にせず、そのまま炬燵を堪能していた。神楽にいたっては、二個目のミカンを丸呑みにしている所である。